「生まれてはじめて」 アナとブランコとお日さま(『アナと雪の女王2』公開記念)

 『アナと雪の女王2』がもうすぐ公開されます。この機会に前作『アナと雪の女王』の名場面を振り返ってみましょう。今回は「生まれてはじめて」の場面です。

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 「生まれてはじめて」はエルサの戴冠式の日に妹のアナが歌う曲です。現題は"For the First Time in Forever"。英語で"for the first time in three years"と言えば、「3年間ではじめて」、つまり「3年ぶりに」という意味。ここは"in forever"ですから、直訳すると「永遠ではじめて」となります。前回から永遠と感じられるくらい長い時間が経ったということです。

 日本語だと「本当に久しぶりに」と言うところですが、英語ではこうした大げさな表現が好まれます。"forever"を使った表現としては、たとえばこんなものもあります。「彼のことはずっと前から知ってるよ」は"I've known him since forever." 「返信が遅くなってごめん」は"Sorry for taking forever to reply."

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 さて、この場面では「本当に久しぶりに」、アナにとって嬉しいことが起きます。ずっと閉ざされていた城の門が開かれ、外の世界のひとたちがやってきます。そのなかにはアナの運命の相手("the one")がいるかもしれません。

 曲の途中、アナは嬉しさのあまり、窓の外に飛び出し、あるものに乗ります。覚えていますでしょうか。窓拭き用のブランコです。高い建物の窓を拭くときに、足場として使うものです。

 このブランコには、長さを調整するロープがついています。ブランコに飛び乗ったアナがそのロープを引くと、ブランコが――そしてブランコに乗ったアナが――どんどん上がっていきます。これはまさにアナの気持ちが上がっている場面ですが、その場面でアナ本人が上がっていくという演出です。まさに彼女は有頂天です。

 ただ、映画館で見たときに気になったのは、アナがブランコに飛び乗る瞬間、陰に入ってしまうということです。ちょっと考えてみてほしいのですが、自分が映画監督になったとして、魅力的なヒロインを撮るとき、彼女を陰に入れるでしょうか。ふつう入れないですよね。

 ではなぜここで陰に入れるのでしょうか。すぐに答えが明らかになります。このあとアナはどんどん上昇していくのですが、そうするとアナは陰から光に出ます。つまり、これはアナを陰に入れるというよりは、彼女を陰から光に出す演出なのです。

 これはなんのための演出でしょうか。確実に言えるのは、陰から光への移行が、アナの境遇の移行を象徴しているということです。つまり城のなかで過ごす暗い生活から、外の世界のひとと出会う明るい生活への移行です。

 さらに重要なことがあります。アナが光に出た瞬間、もともと陰にいたからこそ、顔がとても明るく輝いて見えるということです。この顔の輝きを見逃さないようにしましょう。

 この場面でアナはとても喜んでいます。心のなかが輝いています。しかしその心のなかの輝きは目には見えません。その目には見えない心の輝きを、ここでは目に見える顔の輝きによって表現しています。目には見えない心のなかを、日光を利用して、目に見える映像として描いているのです。このようにキャラクターに光を当てることによって、その人物の心の輝きを表現するというのは、よくある技法です。

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 このあと、城のなかに戻ったアナは、イケメンの銅像を運命の男性に見立てて歌います。銅像に隠れてこっそりチョコを食べるところがアナらしくていいですね(このチョコは『シュガーラッシュ』に登場するチョコの山を意識したものだそうです)。

 チョコを食べ終えたアナは銅像と一緒にダンスしますが、くるっと回転した勢いで銅像を放り投げてしまいます。銅像は五段重ねのパープルのケーキの上に落下します。彫刻の頭がケーキと一体化します。

 これが面白いのは、マッチョな男がかわいい服を着ているように見えるからです。『アナと雪の女王』はセクシュアリティがテーマの映画でもありますが、これはそテーマにつながるイメージと解釈することもできるでしょう。そう言えば、映画のエンドクレジットのあとに登場するのもティアラをかぶる男のイメージですよね。

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 「生まれてはじめて」はアナが歌う曲ですが、後半にはエルサのパートもあります。姉妹がヴィジュアル面で対照的に描かれているのも大きなポイントです。その点を見ていきましょう。

 服の色もそうですが、より重要なのは動き方です。アナはとてもよく動きます。しかも上下に動きます。一方、エルサはほとんど動きません。動くとしても前に少し動くだけです。この点を押さえておくと、「レット・イット・ゴー」の場面をより深く味わえます。

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 エルサとアナの対比に関しては、ふたりの背後に映った絵画も重要です。多数の絵画が飾られた城の一室で、アナは曲の二番目のコーラスを歌いながら、絵画のなかの女性と同じポーズを取ってみせます。どの絵画の女性も周りにちやほやされています。アナもそうなりたいのです。(その内の一枚はフラゴナールの「ぶらんこ」を模したものであり、すでに多様な分析がなされていますが、ここでは省略します。)

 面白いのは最後の絵画です。これ以前の絵画では中心に女性がにいて、アナはその女性のまねをしていました。最後の絵画では中心に女性がいません。アナはその絵画の中央に立ち、自分がその中心になってみせます。これまでは憧れていただけ。でも今日こそは自分が主役。そんなアナの思いがよく伝わってくる演出です。

 この直後、別室にいるエルサも絵画を背景にポーズをとります。中心に描かれた人物と同じポーズです。しかし、それは女性ではありません。男性です(アナと違って男性に同一化するのも、セクシュアリティのテーマ的に興味深いです)。具体的に言うと、父親、つまり前の王です。

 戴冠式を描いたその絵画では、参列者が王を敬いつつも畏れている様子です。さきほど言及した絵画、アナが「主役」を演じたあの絵画で、同席者が彼女をちやほやしているように見えるのとは大きく違います。エルサとアナの対比はこんなところにもあらわれています。

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 「生まれてはじめて」の場面で、躍動感あふれるアナとは対照的に、氷のように硬くこわばったエルサ。しかし、エルサがまさに氷に関わる力を使って、アナを凌ぐ躍動感を見せる場面がやがてやって来ます。その場面については、次回の記事で書くことにします。

 以上の記事は夢ナビライブ2018での高校生向けの講義「映画を見る目を変える 画面分析のレッスン(『アナと雪の女王』論)」の原稿にもとづくものです。