『トイ・ストーリー』の英語
『トイ・ストーリー』のセリフ(英語)は面白い。あらためて見るといろんな発見があります。
今回はシリーズ第1作から3つだけ例をあげます。
①「おい、スケッチ。勝負だ!」
ウッディ:おい、スケッチ。勝負だ! ...またやられた! スケッチ、お前、大したもんだな。西部一の早撃ちだ。
ウッディがスケッチ(絵を描くおもちゃ)と早撃ち競争をする箇所。ウッディは銃を素早く抜く仕草をします(二丁拳銃!)。一方、スケッチは銃の絵を瞬く間に描いてみせます。
さて、このセリフ中の「勝負だ!」ですが、原文では"Draw!"です。これは掛詞になっています。
英語の"draw"には「銃を抜く」と「描く」という両方の意味があるのです。
「西部一の早撃ちだ」は原文では"Fastest knobs in the West." 本来なら"Fastest hands"と言うべきところですが、"hands"の代わりに"knobs"と言っているのが面白いですね。"knob"はダイヤルのこと。スケッチには2つダイヤルがついていて、これを回すと絵が描けます。
「西部一の早撃ちだ」と言いたいときは、"Fastest gun in the West."または"Fastest gunslinger in the West."も使えます。実際に使うことはなさそうですが、笑。
スケッチの英語の正式名称はEtch A Sketch。略してEtchと呼ばれます。国立アメリカ歴史博物館のお土産コーナーに売っていたので、姪っ子に買って帰ったことがあります。
②「仕事はきちんとやってくれるさ」
ウッディ:おい、あいつらはプロなんだぜ。信じろよ。仕事はきちんとやってくれるさ。
アンディの誕生日プレゼントが何か探るために、ウッディはグリーンアーミーメンを偵察に送り出します。連絡が遅いと心配するレックスにウッディが言うのが上のセリフです。
「仕事はきちんとやってくれるさ」は原文では"They're not lying down on the job." 英語の"lie down on the job"には「仕事をおろそかにする」という意味があります。字義どおりの意味は「仕事の上に寝そべる」。
このセリフが面白いのは、グリーンアーミーメンが仕事中に床に寝そべっているからです! ただし、仕事をおそろかにしているのではありません。偵察中、アンディのママに足でどけられて転んでしまったのです。
③「ウッディが大丈夫って言やぁ、俺はそれで大丈夫なのさ」……というセリフの最中の仕草
スリンキー:おいおい、落ち着けポテトヘッド。ウッディが大丈夫って言やぁ、俺はそれで大丈夫なのさ。
②の少し前の場面。ウッディがアンディの誕生日パーティーは今日になったと告げると、おもちゃたちはパニックになります。「大丈夫」というウッディにポテトヘッドが抗議すると、スリンキーが上のセリフを述べます。
このセリフに変わったところはありません。面白いのは、スリンキーがこのセリフを述べる最中にポテトヘッドが見せる仕草です。
ポテトヘッドは自分の口を外し(彼の顔のパーツは取り外し可能です)、それで自分の尻を叩いてみせます。
尻にキスしているのです。
おわかりでしょうか。英語で"kiss someone's ass"と言えば、「ごまをする」「こびへつらう」の意味です。ポテトヘッドはスリンキーがウッディにごまをすっていると批判しているのです。
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最後の③はTom KemperのToy Story論でも言及されています。『トイ・ストーリー』は英語圏ではかなり学術研究が進んでいますが、日本ではまだまだです。機会があれば海外の研究動向も紹介したいと思います。
Toy Story: A Critical Reading (BFI Film Classics) by Tom Kemper(2015-05-29)
- 作者: Tom Kemper
- 出版社/メーカー: British Film Institute
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